とみしゅーの雑記帳

字数制限に馴染まない思考の整理など※当ブログの発信内容は全て個人的見解であり、筆者が所属している組織の見解とは一切の関係がありません。

道北に見る、JR北海道の生きる道

※本エントリではインターネット上に出ていたデータを、必ずしも裏をとれずに使用している場合があります。特に車両や路線データに関しては、フリー百科事典Wikipediaを参照にしている場合があり、実際とは異なっている可能性があります。また、これは完全なる私見であり、所管官庁も含め所属組織やその見解とは一切関係ありません。

 今年の4月12日、以下のようなニュースが流れて鉄道ファンの間でしばし話題となった。

dd.hokkaido-np.co.jp

  残念ながらこのニュースの本文は北海道新聞の購読者でなければ読めないのだが、Twitterに画像としてアップされた当該記事紙面によれば、JR北海道は老朽化が進んで廃車が決まったキハ183系34両をキハ261系で置き換えるものの、経営難により全てを置き換えることは困難であり、特急「サロベツ」「オホーツク」について運行区間の短縮や減便を検討しているというものであった。このニュースには続報があり、

mainichi.jp

宗谷本線系統および特急「オホーツク」についてそれぞれ2往復の運行を旭川~稚内、網走に短縮する方向で検討が進められているようだ。

 JR北海道の経営危機に関しては、2010年代に入ってから度々事故や不祥事を繰り返し、それらに対する報道などを通じて紹介されてきた。また、合理化の一環としてここ数年は、路線や駅の廃止の動きも出てきており、既に廃止路線や駅が出始めた中での上記報道となったのであった。その点で今回の件も、一連の合理化の流れの一つということができよう。自分はこのニュースに関しては、問題の抜本的解決につながる措置であるとは到底思えないものの現時点ではそこまで否定的な意見ではないが、JR北海道が行う「合理化」の取り組みに関しては強い疑問を抱くことが多かった。それが本エントリを書こうと思った発端である。そしてそれは、高齢化、人口減少、自動車社会の進行に直面する地域公共交通に共通して言えることも少なくないと思う。

 さて、地域公共交通に関しては一橋大学鉄道研究会に在籍していた2012年に私も提案者の一人となって、鉄道研究会が以下のような研究をまとめた。

一橋鉄研:一橋祭研究2012「地域公共交通を考える」目次

 この研究は、沿線自治体としてあるいは沿線地域としてどのような姿勢で地域公共交通と交通弱者の問題に取り組んでゆくのかという視点の強い研究になっている。この内容を繰り返してもしょうがないので、これを前提として、どうやれば鉄道の強みを生かした「合理的」な運行ができるのかというよりテクニック的側面から自分の考えをまとめてみたい。

 なお、当然のことながら経営危機のJR北海道をどうするか、人口希薄地帯である北海道の公共交通をどうするのかは議論されている。JR北海道では「JR北海道再生推進会議」という会議体を設立し、「JR北海道再生のための提言書」を提出している。

http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2015/150626-3.pdf

  また、北海道では北海道運輸交通審議会の小委員会として「地域公共交通検討会議」を開催し、これまで2回にわたって議事が行われてきており、今後平成28年も継続していく予定とのことである。

地域公共交通検討会議(平成27年度) | 総合政策部交通政策局交通企画課

  一定の結論に達したことになっているJR北海道再生推進会議の報告書について一応コメントしておくと、今後鉄道経営をどのような方向性で進めていくのかに関しては「(4)持続的な経営改革について」で言及されているものの、その内容は何かを言っているようで何も言っていないという印象が強いものであった。たとえば、報告書の中では「選択と集中」という言葉が繰り返し出てくるが、その基準として言及されているのは「大量輸送手段としての特性が発揮できるかどうか」のみであり、大量輸送手段としての特性が発揮できるとはどういうことなのか、自助努力によってはその特性を発揮できるようにするためにはどのような方向性を目指すべきなのか、そのためにはどの程度の経営資源を投下できるのか、あるいはどの程度の沿線自治体などからの支援が必要なのか、集中させればどのような改善が可能なのか、そもそも北海道においてどのような輸送形態が望ましいのかなど、「選択と集中」を進めていくうえで考えないといけないことについて、全く言及されていないか、言及されていても「円滑な乗り継ぎに考慮したダイヤ編成など可能な限りのサービスの確保」、「バス・航空路線等の各輸送機関、高規格道路などの交通基盤の特性や利用の状況を勘案した効果的・効率的な組み合わせ」など、今更議論して報告書にまとめるまでもないような当たり前のお題目しか書かれていない。

 要するに、駅や路線の廃止を進めていくという方向性を出したいだけで、輸送機関としての競争力強化や最適な交通機関の分担のありかたに対するビジョンなどはどうでもよいと考えているようにみえる報告書というのが読んだ感想だった。その中での地域公共交通検討会議だから、どのような方向性に向かうのか注視しているところだが、現状半年にわたって会議がそもそも開かれておらず、その間にもJR北海道の経営は厳しさを増し、上述の記事のような撤退戦の議論が各地で進められている。今まさに行われているであろうJR北海道と自治体の間の協議にあっては、鉄道の特性を地域としてどのように位置づけ活用していきたいのか、地域全体として交通体系の青写真をどのように描くのか、そのためには双方何をしていくことができるのか、できないのかについて議論が深められてほしいと切に願う。

 さて、前置きが長くなったが本題ということで、今回はまさに特急3往復中2往復の運行区間短縮が決まった宗谷本線を例にとりながら書いていきたい。なぜ宗谷本線なのか、それは宗谷本線名寄以北が定期特急運行区間で唯一輸送密度が500人以下であり、北海道的鉄道の姿を端的に表しており、かつ「合理化」の最先端を走っているからである。

 宗谷本線は旭川と稚内を結ぶ259.4kmの長大な地方交通線で、沿線には旭川市比布町和寒町剣淵町士別市名寄市美深町音威子府村、中川町、幌延町、天塩町(町内には入らないものの近接して走る区間があり、特に雄信内駅は幌延町内だが雄信内集落は天塩町内にある)、豊富町稚内市が立地している。全区間を直通し札幌駅まで運行する特急列車が1日3往復、普通列車は名寄以南では比較的本数が多いが、名寄以北は音威子府までが4.5往復、幌延までが3往復、幌延以北が3.5往復と極めて本数が少なくなっている。JR北海道が発表した平成26年度の状況は

     輸送密度 営業収益 営業費用 営業損益(含管理費)

旭川~名寄 1512人   724   3031  △1919

名寄稚内0 405人   487   2643  △2544(百万円)

となっており、極めて厳しい状況となっている。

 残念ながら何にいくらかかったために現在のような状況になったのかについて書かれた文献は見つけられなかったが、時刻表や地図、航空写真、地域公共交通検討会議にJR北海道が提出した資料、宗谷本線の運行や体制に関する資料などを参照しながら、現在の宗谷本線名寄以北の抱える課題について考えてみたい。まず列挙すると、私の中では以下の点に整理した。これらについて一つ一つ書いていきたい。

①遅い普通列車と実質的乗車機会の少なさ

南稚内の拠点の存在意義と運用の非効率

③高性能特急車両の性能の無駄遣い

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 ①遅い普通列車と実質的乗車機会の少なさ

 普通列車が特急列車より遅いことも、今の宗谷本線の運行本数では乗車機会が少ないこともある意味当然だがそれを問題にしているのではない。

 そもそも日本で鉄道の運行が始まった明治5年には、現在でいうところの普通列車しか運行されていなかった。急行列車が運行されるようになったのは20年以上後のことである(見方によって年が異なる)。では、何のために急行列車など運行されるのか。それは、遠距離を早く移動したい利用者と、短距離をこまめに利用したい利用者の両方のニーズにこたえるためだと思う。この点について多くの場合異論はないであろう。また、路線によっては優等列車と普通列車の乗り継ぎにより普通列車のみ停車駅からでも遠距離の利用の利便性を高めている例がみられる。そして、ここで重視しなければならないのは、このような形で遠近の利用が分離されるのは、それぞれの利用者だけで一つの列車を仕立てられるだけの需要があることを大前提としているということである。

 さて、翻って宗谷本線の運行形態を見ていきたい。宗谷本線の運行本数は上述の通りで普通列車の運行本数としては全国の中でも最も少ない部類に入ってくる。この状況まで行ってしまうと、地域の短距離移動の手段としてはもはや機能しているとは言い難い。一般に一日3往復程度の路線を見ると、朝(登校時)、午後(下校時)、夜(部活帰り)という運行時間帯などを見ても、高校生の通学専用列車としてしか機能していない。宗谷本線名寄以北についてみれば、通学の足として使えるのも対名寄稚内美深などに限られる。普通列車の運行形態だけを見れば、宗谷本線名寄以北は地域の交通機関としての役目を終えているといわざるを得ない。

 では遠距離利用はどうか、宗谷本線の特急列車は3往復で、停車駅は和寒士別名寄美深音威子府天塩中川幌延、豊富、南稚内稚内と、すべて市町村役場に対応していたりそれに準じていたりしており、特急列車が都市間輸送を使命としていることはダイヤから明らかである。特急列車3往復の運行時間帯を見てみると、朝出発昼到着、昼出発夕から夜到着、夕方出発夜到着となっており、長距離列車の運行時間帯としてはおおむねセオリー通りではあるのだが、3往復しかないために細部で見るとやや使いにくい側面がある。たとえば朝出発の列車は7時台出発で、これは唯一の午前出発列車の発車時刻としては少し早すぎる。一方で、これより繰り下げれば昼過ぎの到着になってしまい、昼前に到着する列車を別に仕立てる必要が出てくる。また、夕方出発が17時台というのも沿線の事業所に勤務する利用者にとっては非常に使いにくい。一方でこれ以上繰り下げれば、目的地への到着時刻が遅くなってしまう。現状でもすでにかなり遅いが、繰り下げた場合それなりの時間帯に到着したい場合には昼過ぎ発車の列車に乗るしかならなくなってしまう。

 一方で普通列車は遠距離移動の手段としてはほとんど機能していない。旭川~稚内を直通する列車は1往復のみであり、停車駅も非常に多く片道で5~6時間かかる。これは同区間を運行する特急列車に比べて1時間半以上遅く、同じ時間で特急列車は札幌駅に到着してしまう。また、運行時間帯についても始発を特急の後追いで出発したり、終点で後続の特急に追い付かれたり、途中駅で1時間以上停車して特急に追い抜かれたりと、遠近の棲み分けを行なっている状況がある。現状都市間移動に使える可能性があるのは稚内10時52分発の4326Dぐらいであるが、乗り継いだ快速なよろ8号は旭川でスーパーカムイ32号の1分前到着というダイヤになっており、通常乗り継ぎは期待できないと考えられて接続としては最悪である。このように考えると、普通列車は都市間輸送の役割は全く果たしていないといっても過言ではないと思う。なお、名寄以南の快速なよろ号は都市間輸送において一定の役割を果たしていると考えている。

 ところで、、宗谷本線の特急列車は様々な都市間バスと競合関係にある。競合関係にあるのは以下の通り。

わっかない号・はまなす号…札幌市~稚内市宗谷バス北都交通

なよろ号…札幌市~士別市名寄市道北バス北海道中央バス

はぼろ号…札幌市~幌延町・豊富町(沿岸バス)

えさし号…札幌市・旭川市美深町音威子府村枝幸町宗谷バス道北バス

天北号…(札幌市・)旭川市音威子府村~鬼士別宗谷バス

このように、宗谷本線の特急列車がバスと競合していないのは天塩中川(中川町)、和寒和寒町)だけという状況であり、厳しい競争となっている。特に都市間輸送であるわっかない号、なよろ号は非常に脅威である。現状これら2路線については、バスが本数・運賃で優位、鉄道が所要時間で優位であるものの高規格道路の延伸が進んでいることによって鉄道の優位性は揺らぎつつある。一方で鉄道は、バス運賃と互角になる指定席往復割引きっぷ(Rきっぷ)を発売しており、現時点では互角の勝負といったところであるが、Rきっぷは往復の普通運賃より安く、有料特急としての収益性が確保されているのかはなはだ疑問である。

 以上をまとめると、宗谷本線(特に名寄以北)では普通列車は地域輸送を担うには本数が少なすぎ、かつ都市間輸送は特急のみが担うことによってまとまった需要を確保することが困難になっている。一方で特急列車は、都市間輸送に特化しているもののバスとの競合で本数、価格面で厳しい競争にさらされており、絶対的な需要も少ないために乗車機会も増やせず運行時間も中途半端になって取り込める需要が取り込めていない。構造的に使いにくい運行体系になっており、利用者の減少を加速する要因の一つになっていると考えざるを得ない。

南稚内の拠点の存在意義と運用の非効率

 次は車両の運用効率の問題である。なお、鉄道車両の整備などの技術についてはあまり詳しくないため、技術的な部分に関しては無理解などがあればご指摘いただけると幸いである。

 現在の稚内を発着する列車のダイヤを見ていると、非常に特徴的なのが折り返し時間の長さである。各列車の推定最短滞在時間は以下の通り。

・スーパー宗谷1号1253着→スーパー宗谷4号1700発 4時間7分

・スーパー宗谷3号2258着→スーパー宗谷2号0700発 8時間2分

サロベツ1822着→サロベツ1344発 19時間22分

・普通音威子府発0801着→普通名寄行1052発 2時間51分

・普通旭川発1156着→普通名寄行1717発 5時間21分

・普通名寄発1930着→普通幌延行1939発→普通旭川行0514発 9時間44分

他の路線を見る限りJR北海道であっても普通列車は10分以内、特急列車でも最短20分程度で折り返している例がみられるのに対し、稚内での滞在時間が非常に長い。これにより特急は1日3往復の運行であるにもかかわらず4編成が必要になり、普通列車についても夜間を除き常に名寄駅以北区間に常時2編成、朝夕は3編成を使用していることになる。これに対して、たとえば根室本線の釧路~根室では、4分の3弱の路線長であるものの2編成で1日6往復の列車が運行されている。

 今年度からJR北海道では、老朽化したキハ40が廃車になって代わりの車両がないとして、普通列車の大幅減便を行っている。宗谷本線においてもそれまでに比べて大幅に運行本数が減少しているが一方でこのようなゆるゆるの運用がまかり通っているのを見ると、本当に車両不足が原因で減便したのかさえ疑念を抱かざるを得ない。他にもJR北海道では電化されているにも関わらず気動車の普通列車を運行している区間もあり、気動車不足とは思えないような車両の無駄遣いが目立つのは非常にいただけない。(なお、電化しているにもかかわらず気動車の普通列車が日常的に運行される苫小牧~室蘭は、ワンマン・短編成運転ができる電車がないことから気動車が運行されるらしい。要するにこれまでの車両整備の無計画により電化設備の維持費と気動車の燃料コストの二重負担、気動車の車両不足を同時に招いたということになろう。)

 では、非常に長い滞在時間ではいったい何が行われているのか。どうやら南稚内の拠点に移動のうえで点検や給油を行い、再び稚内に移動して始発列車となるらしい。そもそも宗谷本線の運行は名寄にある宗谷北線運輸営業所が分担しているらしく拠点があるとみられるが、南稚内にも航空写真を見る限り比較的大きな規模の拠点があるように見える。南稚内の拠点は配線の都合上稚内駅から直接進入することができず、稚内で折り返した列車は南稚内駅に入っていったん停車し、再び折り返して拠点に入るようになっているとみられる。稚内始発にしても同じプロセスを逆向きにたどっている。このプロセスを安全に行おうとすれば、それだけで往復1時間程度はかかるのではないかと考えられる。このような非効率が折り返し時間を延ばして車両の運用を非効率にしているのであれば、南稚内の拠点のあり方について再考すべきなのではないかと思う。

 そもそも、南稚内の拠点の必要性がどの程度残っているのかについても再考すべきなのではないか。航空写真等で南稚内の拠点を見ると、特急列車と単行気動車それぞれ2編成ずつ停車できるだけの上屋と、北海道ジェイアール運輸サポートの施設とみられる建物がある。現状1日数往復の列車のためにこれだけの拠点を維持しないといけないのか。いくら組織としては駅という扱いであっても、これだけの拠点を維持するとなればそれなりのコストがかかり、宗谷本線の営業係数を悪化させるのであるから、そのあり方については再考の必要があるのではないかと感じる。たとえば、給油施設や点検整備、運転士や車掌の仮眠室など最低限の施設のみ稚内駅に移設し、給油・整備はホームに停車したままできるようにすれば、上述の運用の非効率についても大幅に改善でき、宗谷本線自体のコストの低減にもつながるのではないかなどと考える。たとえば、これが実現すると現在のスーパー宗谷に使用しているキハ261系2編成で1日3往復の特急の運行が視野に入ってくる。

③高性能特急車両の性能の無駄遣い

 この問題が当てはまるのは現在では宗谷本線名寄以北と石北本線だけだが、この問題がなければもっと状況は違っていたであろうローカル線も少なくないと思うので是非言及しておきたい。

 JR北海道の特急列車の車両は非常に高性能で、気動車でありながら130km/h(現在は減速中)で走行でき、北海道内の特急列車の高速化に大きく貢献してきた。その一方で、JR北海道が今年4月に出した文書によれば特急車両は1両3億円以上と高価格で、老朽化した車両を置き換えることが困難な状況になり上述の特急列車の運行区間短縮や減便の原因となっている。国鉄時代に導入されたキハ183系は老朽化が進行しており廃車が進められる予定で、ますます問題は深刻になっていく見込みである。

 現在、宗谷本線名寄以北と石北本線はともに最高速度は95km/hとなっている。これはJR北海道の保有する多くの一般型気動車でも十分に出せる速度であり、最高速度130km/hの性能が全く生かせない。せっかく高価格の車両を投入して性能が大幅に向上しても、その性能を全く活かせないようであれば当然その優先度は下がらざるを得ない。これは言明されていないが、JR北海道サロベツとオホーツクの置き換えができないもう一つの理由なのではないかとさえ思う。なお、現在使用されているキハ183系でも過剰性能だったが、その差は相対的には小さかった。

 ところで、JR各社を見ているとエース級の特急車両に対してやや性能は劣るが価格も安い特急車両を保有しているところが割とある。たとえば、JR西日本智頭急行が運行するスーパーはくとHOT7000系)は関西から鳥取へのアクセス手段として有名だが、同じ路線を走行して岡山とのアクセスに使用されるキハ187系は普通列車などで使用する車両との部品の共通化を行うなどして製造コストの低減を図っているという。また、四国や九州などで使われるキハ185系も、部品の共通化に加えて特急でありながらワンマン・短編成での運行にも対応して山岳を走るローカル線の特急列車として活躍している。

 もちろんそれらを北海道でもすぐに実行可能であるとは思わないが、過去を振り返って不可能だったかといえばそんなことはないと思う。たとえばJR北海道気動車であるキハ150気動車は高い加減速性能を持ち速度も110km/hで走行可能とされており、内装や窓割りだけ製造時に区別すればほとんど共通設計でローカル特急向け特急車両として使うことはできたのではないかと考える。現在特急サロベツやオホーツクは札幌~旭川において、同区間を走る特急スーパーカムイに比べて10分程度余計に所要時間がかかるが、最高速度110km/hを維持して走行すればそれには大きく見劣りしない所要時間で到達して後続のスーパーカムイからも逃げ切れると考えられる。

 このような車両はほかのローカル線にも希望を与えられる。富良野倶知安などは一大リゾート地であるが特急街道から外れ、それゆえにアクセスではバスなどに大きく後れを取り(というよりほとんど競争を放棄し)臨時列車が時々運行されるにとどまっていた。しかし、ローカル線向け特急車両をある程度持っていれば、こういった比較的小さい都市や観光需要への低規格路線であっても特急列車を運行して、都市間輸送の需要を取り込むことができるのではないかと考える。今更そんなことを言ってもしょうがないわけであるが、JR北海道は老朽化したキハ40形の置き換え用としてJR東日本のハイブリッド気動車の技術をベースとした一般型を投入する予定で開発を進めているので、ローカル線向け特急車両への発展も期待したい。ハイブリッド気動車は基本的に電車の技術であるから、高速性能の確保は気動車そのものよりはるかにハードルが下がるはずである。

 なお、この論点に関しては一見一つ目の論点と矛盾するように見えるかもしれないがこれに関しては後で考え方を示したい。

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 では以上の論点を踏まえてどうすればよいのか。これについては本来、街づくりの中で公共交通機関をどのように位置づけ、どのような役割を求めていくのかと一体不可分の問題であり、一概にいうのは適さないと考える…が、今回は宗谷本線を引き合いに出させてもらったので宗谷本線に関して少し考えてみたい。なお、この議論には自分の考える道東・道北の街づくりの理想形を前提としたものになるのであらかじめ断っておきたい。

 昨今の地方の人口減少に加えバブル期に建設された生活インフラの維持が困難になっているといわれる。また、人口減少により消滅する集落は増え続けており、今後はよりレベルが上がり消滅する自治体も出てくるとされている。そのような中でどうやって暮らしや国土を守っていくのは非常に難題であり、人口希薄な北海道ではその問題は特に先端を進んでいる。このような中、一つの方向性として様々な機能の集約とアクセスの改善をセットで行っていくというのが考えられるのではないかと思う。まず、ショッピングや医療などの拠点機能は稚内市名寄市に集約、学校や診療所なども町村役場単位で集約し、各市町村でも居住はなるべくある程度コンパクトにまとまった集落単位に集約する。農作業は集落から広大な農地まで通うことを前提としてできれば集落単位で営農会社を立ち上げて大規模に耕作するなどして、一軒一軒農家が点在しているような集落はなくしていく方向を目指す。いわば、定住自立圏の考え方に近いかもしれない。

 すると現在の道北では数キロから十数キロに一か所の集落が鉄道沿いに点在するようになってくる。そうすれば、JR北海道のいうところの「極端にご利用の少ない駅」は一定の割合で名実ともにその役目を終えることになる。航空写真などを見て集落としてのまとまりがあるところのみを駅として残す場合、駅として残せると考えられるのは名寄以北では智恵文、美深、恩根内、咲来、音威子府、佐久、天塩中川、問寒別、雄信内、幌延、豊富、兜沼、勇知、抜海、南稚内稚内のみだと思う。駅数にして一気に半分になり、普通列車にとっては大幅なスピードアップにもつながるので地域輸送にとってもプラスは大きい。なお、上記の駅の選定は本来地域の実態をよく知ったうえで行うべきものであり、これはあくまでも一例である。

 また、運行体制についても大幅に見直したい。現在の宗谷本線の輸送量で、都市間輸送と地域輸送で列車の棲み分けを行うことは無謀である。都市間輸送も地域輸送も乗車機会が少なく需要にこたえるのはもはや困難になりつつある。そこで上記の駅の整理が効いてくる。上記の存続駅の中で現行の特急停車駅でないのは智恵文、恩根内、咲来、佐久、問寒別、雄信内、兜沼、勇知、抜海の9駅だけである。このすべてに特急が止まったとしても所要時間の増加は高々10分であり、全区間の所要時間5時間と比較すれば誤差のようなもので悪影響は極めて限定的である。そこで、同区間は種別を問わず各駅に停車させるとともに、特急と普通を交互に運行することによって都市間輸送、地域輸送ともに乗車機会を増やすことができる(普通列車は旭川でスーパーカムイに接続)。なお、実施に当たっては同区間に限り短距離であれば特急列車に普通乗車券だけで乗車できる特例を設ける必要があると考えるが既に石勝線で前例のあることであり、区間が長くなることにより距離の限定などの工夫は必要であるものの十分可能と考える。現行のRきっぷの値段を考えれば、収益への悪影響も小さい。また、石北本線の上川~遠軽なども事実上そのようになりつつある。

 このような運行形態は北海道の他の地域であっても大きな可能性を持っていると思う。JR北海道の駅の3割を占める「ご利用の極端に少ない駅」はそれそのものがコストであるだけでなく、列車の所要時間を延ばして利用者や沿線にとっても大きな不利益をもたらしている。これらを整理することによって北海道の鉄道はこれまでと違った地域公共交通の形を作っていく可能性があると考えている。ここで、上述のローカル線向け特急車両が威力を発揮することになる。ただし、これは現在のように毎年数駅ずつ廃止していくことを肯定するものではない。行うのであればJRと沿線で議論を重ねて将来の公共交通の未来像を描き、それに沿って一気に進めるべきで、今のままの運行形態を維持したまま中途半端に駅や路線の廃止などを進めれば、代替交通もないまま地域と鉄道を緩やかな死に追いやるだけでJRにとっても地域にとっても最大の悲劇だと思う。

 鉄道輸送のメリットとしてはしばしば大量・高速輸送が挙げられ、JR北海道の報告書などでも繰り返し言及されているところであるが、都市間輸送においてはもっと大きな強みが存在する。それは細い需要を束ねる機能である。上述した通り宗谷本線の特急列車は多くの都市間バスと競合しているが、このこと自体がその証左であるといえる。多くの場合都市間バスは、起点となる都市内と終点の都市内でしか乗り降りできない。したがってバス1台分の需要もないような小都市や町には止まらないし止まっても本数ははるかに少なくなってしまう。それに対し鉄道は停車駅全てから等しく利用することができ多様な需要にこたえつつ、それらの需要を束ねて効率よく輸送することができる。しかもその最小単位は単行気動車1両分で、座席数だけで見れば都市間バスよりも少ない。この点は、地域の鉄道のあり方をかんがえるうえで忘れてはならない点だと思う。特に宗谷本線は、各都市や町村、集落の中心付近に駅が立地している例が多く、鉄道輸送にとって好条件となっていることも付け加えておきたい。

 ところで、現在ローカル線は多くの場合、都市部での黒字路線や相対的に赤字の少ない路線からの内部補助や犠牲のもとに成り立っている。このような状況は全くもって健全であると思えない。国土の均衡ある発展を目指し、都市部あるいは東京と地方の格差を是正し、あるいは東京が地方から様々な資源を搾取して発展する構造になってしまっていて改善が必要ということであれば、不透明で中途半端な企業ごとの内部補助に頼るのではなく、どのような方向性で進むのかのビジョンを明確にしたうえで再分配を制度化していかなければならない。そうしないと、問題の本質から目を背けたまま対症療法を続けることになり、後戻りできないところまで行ってしまうかもしれない。また、個々のサービスの受益者にしてみれば、地方の利用者は内部補助を負い目に感じ、都市部の利用者は内部補助に対して不公平感を抱くことになってしまう。それよりは、問題を直視して明確なビジョンを持って再分配を制度化し、それに基づいてする側も受ける側も堂々と行ってこそ、国土の均衡ある発展や格差是正、構造的問題の解決につながるのではないかと思う。

 話が大きくなってしまったが、ローカル線を抱える地方としては、その地域の街づくりの枠組みの中でどのように公共交通機関を位置づけるか議論し、その中で最適な形態を追求する中で利用者の増加、運行コストの削減につながっていくことを願ってやまない。

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 さて、以上のようなことを言おうと思って書きためていたが、ここにきて大きな動きが出てきた。それに関するニュースとJR北海道が出してきた文書は以下の通り。 

www3.nhk.or.jp

「持続的な交通体系のあり方」について

http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160729-1.pdf

 38ページもあるが、要するに「現在のJR北海道が極めて厳しい経営となっており、設備の維持管理や運行費用の負担に耐えられないから、費用負担を地域において行ったり、場合によっては運行そのものから手を引いたりしたいので予告する。」という趣旨のものであるようだ。各々の地域で街づくりと一体で公共交通のビジョンを描いてそれに沿って輸送サービスを最適化して利用増、コスト減を図るなどということには一切興味がないように見える。それはJR北海道が自助努力として鉄道事業の効率化として行ったことに如実に表れている。

 もちろん、鉄道輸送に適さない場所に路線を維持し続けることはあってはならないのだが、その議論の前提として地域の公共交通の今後のあり方のビジョンを示し、それに最適化した運行を行い、その中で最大限のコストの低減を行うことは大前提である。そのような手順を踏んだうえで、では何が足りないのか、どのような負担のスキームを作っていくのかを議論するのでなければ、残すにしてもなくすにしても大きな禍根を残すことになると思う。現在のJRの経営状況を考えると、沿線自治体にもJRにも残された時間は少ない。そのような中ではあっても、将来を見据えた前向きな議論が行われることを強く願う。

※参考文献は原則省略。知りたい方は個別にお問い合わせください。